「トップシェフ」が使う究極の豚肉『ラ・ベットラ・ダ・オチアイ』落合務さん


豚肉の味がしっかり感じられ料理すると甘みとコク出る

北イタリアにこそ「ポルケッタ」などという豚肉料理があるが、通常イタリア、ことにリストランテで豚肉が食べられることはあまりない。むしろ、仔羊や仔牛のほうが一般的だ。「僕が日本でイタリア料理を始めた頃は、仔羊や仔牛なんて、そう簡単に日本では手に入らなかった。だから、代わりに豚を使ったんだよね」と、「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」のオーナーシェフ落合務さんは言う。

つまり日本のイタリアンでは、豚は、あくまで仔羊や仔牛、仔豚の代用品だった。「もともと仔羊や仔牛は脂身が少ない。だから、豚肉の脂身はいつも取り除いて捨てた。僕は脂身が好きだから、『なんで、こんなおいしい部分を取り除かなきゃいけないんだろう』と、すごく残念に思っていたんだよ」

しかし、イタリア料理が日本にすっかり定着した現代では、豚肉をメインとして提供するレストランも増えてきた。「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」も、そんなレストランのひとつだ。

塩を肉の表面に馴染ませてから焼く

今、落合さんが愛用するのは、群馬県産の秀味豚。豚肉のプロが厳しい目で選畜した、〝キング・オブ・ポーク〞である。柔らかいけれど、肉がしっかり締まっている。脂身はサラッとしていて、ほのかな甘みが感じられる。「初めて食べたときに、旨いと思った。昨年末にメニューに加え、今は秀味豚オンリー。ウチみたいに3990円でコース料理を出すような店は、極力食材費は抑えたい。だけど、料理人としてはできる限りいい素材を使いたい。葛藤だよね」

肉の旨みがしっかりしているから、あえてシンプルな火入れで勝負する。「ポイントは、塩をしっかりふること。肉の中に塩分がないから、外側の塩気だけで肉を食べられるようにしないといけない。そして、塩をふったらすこし置いておくこと。塩が肉の表面で溶けてこないと、焼いたときに塩が落ちてしまうから。また、お客様にお出しするときも、焼いてすぐではなく、30秒くらい置いて落ち着かせたほうが、味はよくなります」「シンプル・イズ・ザ・ベスト」のお手本のような料理。それは、食材に精通し、料理の酸いも甘いも噛み分けたベテランならではの、素材の生かし方に他ならない。

納入された豚肉は、生のままサラシに巻いて、冷蔵庫で保存する。2、3日で、ほぼ使い切る。

秀味豚のグリル

筋間脂肪がバランスよく入り、肉の旨みが詰まった秀味豚は、グリルしてレモンをかけるだけで十分においしい。脂身は焦げ目がついていないと旨くないので、あえて焦げ目をつけている。

バラ先の部分を叩いて火の通りを均一にする

火入れの前に脂身を叩いておく
肉たたきで脂身(バラ先)の部分を叩き、火の通りが均一になるようにしておく。

様子を見ながら火を入れる
焼きすぎると硬くなってしまうので、指先で弾力を見ながら、火を入れていく。

肉の内側がほんのりピンク色になる程度
指で押したときに少し弾力を感じる程度に。赤身の部分がピンク色になるくらいが目安

落合さん 豚肉の来歴
クイーンポーク(群馬県産)

10年以上使った豚。肉の中の水分が少なく筋肉の繊維が細いので、ジューシー。脂も一般の豚より色が白く、しつこさが残らない。

秀味豚のふるさと 群馬ミート

この道30年のベテランがその日に入荷した豚肉をさらに選畜
秀味豚とは、食肉の加工・販売で60年の歴史を誇る群馬ミートが、農家の選畜と処理場の選畜を経て規格基準をクリアした豚肉を「質」という観点でさらに選別し、最上質と認めた豚肉のこと。ブランド豚であっても個体差があるため、群馬ミートでは入荷した肉のなかからブランドに関係なく上質な豚肉を選んでいるというわけだ。旨み成分の分析でも、群馬ミートで選んだ豚は旨み成分が高いことわかった。

ここで選畜されるが、秀味豚は1日多くても5頭ほどしか出ないという。場合によっては1頭も出ない日も。

群馬県前橋市東片貝町415-2 
☎027-261-1129
www.gunma-meat.com/corporate

Tsutomu Ochiai

1947年、鎌倉生まれ。当初はフランス料理人を目指すも、途中でイタリア料理人に宗旨替え。約3年のイタリア修業ののち、「グラナータ」のシェフを経て、1997年に「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」をオープンした。

ラ・ベットラ・ダ・オチアイ
LA BETTOLA da OCHIAI

東京都中央区銀座1-21-2
☎03-3567-5656
●11:30~14:00LO 18:30~22:00LO
(土・祝は18:00~21:30LO) 
●日、第1・3月休
●コース 昼1260円~ 夜3990円
●36席
www.la-bettola.co.jp

山内章子=文 大野利洋=撮影

本記事は雑誌料理王国226号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は226号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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