日々、料理に研鑽を重ねているのは、シェフも料理家も同じ。
一方で、シェフが飲食店でゲストに料理を提供するのと、家庭料理のコツを教えるのでは異なる視点が必要だ。
そこで、生産者、プロのトップシェフ、料理家の三者の交流を広げ、互いに刺激し合い、ともに料理業界を盛り上げる。
そんな新しいコミュニティを構築するためにスタートした企画が、この「料理王国アカデミーサロン」。
今回は、東京・八丁堀の路地裏にたたずむ「シック プテートル」の村島シェフに4人の料理家が学んだ。
料理界の第一線で活躍するシェフと料理家を、食材を通して繋ぐ場として好評を博している「料理王国アカデミーサロン」。その6回目の〝教室〞となったのは、東京・八丁堀のフランス料理レストラン「シック プテートル」だ。〝先生役〞は、2020年8月にシェフとなった村島輝樹さん。旬のとびきりの食材を使って一期一会のコースを組み立てる、腕利きの料理人である。
そんな村島シェフが教えてくれる今回のテーマ食材は、淡路産のマナガツオ。
「マナガツオは西日本でしか獲れない魚で、九州産のものが有名なんですけれど、九州産のマナガツオは皮がゼラチン質を多く含んでいて、焼くとプニプニするんです。でも、自分は皮をパリッと焼きたいので、瀬戸内で獲れるマナガツオしか使いません。でも、九州産のほうがうま味は強い。口のなかに残る余韻は長いです。一方の瀬戸内産はふわっとした感じで、ソースと合わせやすいんです」と村島シェフ。
魚だからといって、焼けばいいわけではない。魚種によって、含んでいる水分の量は違う。
「アマダイは水分が多いから蒸し物に向いていたりするし、マナガツオのように水分が少ないものは干物や西京漬けのようなマリネに向いています。美味しく調理するコツとしては、魚種の特徴を知ることも大事です」と村島シェフの解説は明快だ。
今回は「マナガツオのデュグレレソース」と「マナガツオのグルノーブル風」の2品を披露してくれるという。
まずは、「マナガツオのデュグレレソース」から。
白ワイン、魚の出汁、マッシュルームとエシャロットとタマネギのみじん切りを炒めて作るデュグレレソースのベースは、あらかじめ作っておく。デュグレレソースを作るときには、このベースにバターを加える。
隠し味として、白ワイン約4本分を200ccくらいに煮詰めた〝酸味調味料〞を加えるのが村島シェフ流だ。
「基本的には白ワインの酸味ですが、これだけ煮詰めているので、熱を加えても飛びません。ソースのベースにも負けないので、味わいのアクセントになります」と村島シェフ。辛みに近いようなキリッとした酸味が口中の味を消し去り、次のひと口へと誘ってくれる。
マナガツオは皮の部分に薄力粉をまぶし、オリーブオイルとバターでゆっくり火入れ。カルチェしたマッシュルームは一度蒸し焼きにして、バターとオリーブオイルでソテーする。
皿にデュグレレソースを敷き、蒸して色鮮やかになったアスパラを置き、その上にマナガツオを盛り付け、最後にソテーしたマッシュルームを飾れば、「マナガツオのデュグレレソース」の出来上がりだ。
マナガツオ、デュグレレソース、付け合わせのマッシュルームとアスパラのそれぞれの個性がバランスよく馴染み、美味しい。
続いては、「マナガツオのグルノーブル風」。
昆布締めにしたマナガツオをバターで焼き、ある程度火が入ったら余熱でさらに焼く。付け合わせのエノキはオリーブオイルできつね色になるまで強火で焼く。
シブレット、エシャロット、ニンニクのみじん切りとグレープフルーツのジュースが入った香草バターをフライパンに入れ、そこに小分けにしたグレープフルーツ、乾燥させたケッパー、トマトのみじん切りを入れて、ソースを作る。
あとは、マナガツオを盛り付け、付け合わせの炒めたエノキ、バターで炒めた金時草を添え、ソースをかければ完成だ。エノキの香りが食欲をそそる。
「自分の場合、魚は魚、ソースはソース、付け合わせは付け合わせとして召し上がっていただくのではなく、ソースと魚を食べても美味しい、ソースと付け合わせを食べても美味しい、全部を食べても美味しいという料理を目指しています。ですから、魚を調理する直前には塩は振りません。直前に塩を振ってしまうと、魚の味わいがバーンと前面に出てしまうからです。もちろん、魚の個性が強いときには、あえて魚の味が際立つようにすることもあります」と村島シェフ。
塩を振るタイミングや魚に含まれる水分量など、細部にわたって目配りを欠かさない村島シェフの姿勢は、料理家さんたちにとっても大きな学びに繋がったようだ。
村島輝樹
専門学校卒業後、渡仏。帰国後、銀座「マノアール・ダスティン」で働いた後、渡伊。フリウリ州の一つ星レストラン「LA TAVERNA」で修業し、帰国。恵比寿「モナリザ」のスーシェフ、大阪「ル・コントワール・ド・ブノワ」の立ち上げ時のシェフ・ド・パルティを経て、台北「L’atelier de Joël Robuchon」でスーシェフを務める。銀座「ESqUISSE」「ARGILE」でシェフ・ド・キュイジーヌを務めた後、2020年に「シック プテートル」のシェフに就任。
CHIC peut-etre
東京都中央区八丁堀3-6-3
高野サンパレスビル1F
TEL: 03-5542-0884
12:00~14:30(金・土・祝のみ)
18:00~23:00
日・月休
後藤初美 料理・お菓子・食のフランス語教室ル・プティ・フール
幼少時より読書を通じてフランスに興味をもつ。企業勤務のかたわら国内外でフランス語、料理、菓子を学び、フランス各地の食文化を訪ねる旅がライフワーク。2010年よりフランス家庭料理と菓子、食のフランス語教室を主宰。ライト&ヘルシーな美食とワインを楽しむ提案やレシピ開発、テレビ出演多数。
http://www.hatsumi-823.com
村島シェフの妥協を許さない食材選びと徹底した下準備、さらにその結果生み出された2皿のお料理に圧倒されっぱなしでした。「なんでも聞いて」と言ってくださったので遠慮なくたくさんの質問を投げかけましたが、お尋ねした以上のお答えやアドバイスをくださったことにもシェフの懐の深さを感じました。今回いただいたマナガツオのお料理は、今までいただいた中で最高に美味しかったです。同時に、自分自身の日々の行動を見直すきっかけになりました。
酒匂ひろ子 幸せになるアイシングクッキーと料理のおもてなし教室HIROKO’S KITCHEN
10年間の会社員生活を経て、エコール辻東京校フランス・イタリア料理マスターカレッジで料理と菓子を専門的に学ぶ。HIROKO’S KITCHENでは、”作りやすいレシピ”と”カジュアルなおもてなしスタイル”を提案。食品衛生責任者を取得し、菓子製造業も手がける。テレビ・雑誌などメディア掲載多数。
https://www.instagram.com/hirokoskitchen/
今日は、改めてフランス料理の奥深さを感じました。とくに、シンプルな素材を組み立てていくことで、素材を活かしながらいちばん美味しい状態にもっていくというところは、さすがプロだな、と感じました。魚の状態を見ながら、臨機応変に調理方法を変えていくといった点も、経験がなければできないことで、「すごい」と思いました。これからレシピ開発が待っているのですが、皮目をパリッと焼くなど、調理の仕方を参考にさせていただきたいと思っています。
藤山朗子 サロン・ド・キュイジーヌ エッセイエ・ヴ
シンプルで食べ飽きない料理を求め、20年以上パリとヨーロッパの田舎町への旅を続けている。2007年より東京・自由が丘で少人数の料理教室を主宰。スパイス・ハーブを効果的に使う料理や簡単にできて確実に美味しいお菓子などが好評。企業向けレシピ開発・アンバサダー活動・外部講師なども行う。
https://www.essayez-vous.com
白ワインを煮詰めた調味料など、手をかけた調味料は事前にしっかりつくっておくなど、料理の下準備や調理の手順などは、見ていてとても勉強になりました。お教室の生徒様のなかにも魚料理は苦手という人は多いと思うので、魚の下ごしらえの方法や焼くときの注意のポイントなど、今日、学んだことは生徒さんにも伝えたいですね。これからレシピを考えなければいけないのですが、シェフのお料理があまりにも美味しすぎて、今は少し途方にくれています。
石川由美子 料理教室アペリーレ
大学で食物学を学び、その後フードビジネスの学校を卒業。国産雑穀会社の商品開発に携わるなか、2014年より千葉県君津市で「おもてなし料理教室」を主宰。家庭で美味しくつくれる工程が分かるレッスンが幅広い世代に好評。撮影のコーディネート、企業のメニュー開発、コラム執筆など幅広く活躍。
https://i-aperire.com
text:Shoko Yamauchi photo:Yoshiko Yoda