【特別インタビュー】若きシェフとパティシエにメッセージ。小山 進さん パティシエ エス コヤマ


「お前は天才か、ドアホか、どっちなんや――」。
19歳の小山進さんに、勤め先の「スイス菓子ハイジ」の社長は、こう言った。「もし、天才やったら、足を引っ張る奴がいっぱいいるから、圧倒的な力で生きないと生きていけへん。圧倒的になる覚悟ができるんなら、俺は応援してやる」。声は大きく、全速力で走る。新作のケーキを1個作って提出しろ、と言われれば10個作った。小山さんは36歳で独立。51歳を迎えた現在、世界的なチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ・パリ」で3度、最優秀ショコラティエに輝いた――。〝圧倒的な天才〞になったのだ。小山さんは「今も現在進行形で修業中」と言い切る。若きシェフとパティシエに、小山進が我が身を削って得た熱いメッセージを贈ろう。

具体的な目標を立ててスタッフ皆で見直しを

──とてもエネルギッシュな若者だったんですね。

神戸の「スイス菓子ハイジ」で16年間お世話になりましたが、ケーキを作っていたのは8年間でした。パッケージのデザインや営業も担当しました。ひとつの部署で結果を出したら、次はこんなことをさせてみよう、と期待される。その期待に応えるのが、とても嬉しかったんです。社長は僕を「おもろい奴」と思ったようですが、僕も社長を、面白い、魅力的だと思いました。役に立ちたい、そう思って仕事をしました。

──ケーキ作りの後、営業へ回されて、やめようという気持ちは起きなかったんですね。

営業に回れ、と言われたことは、今の小山進が形成されたきっかけになったと思います。僕は菓子の売り方を覚えたわけではない。「もっと楽しく‼」に徹していただけです。

──毎日、スタッフにいろいろと注意をしたのですか。

大きなおせっかいの連続でした。その子が良くなるように、注意をし続けます。「もっと大きな声で挨拶しようよ。その方がめちゃええよ」とか、「こうした方が絶対可愛いよ」とか、プラス志向のことを言っていたら、次第にみんなのレベルが上がっていく。つまり、みんなで具体的な目標を立てて、こう直していこう、ああ直していこう、とやっていると、勝手に次のステージに到達する。それを実体験し会得できたのは、とても良い経験になりました。現在、僕の会社「パティシエエスコヤマ」には、パートさん、アルバイトさんを入れると260名が働いていますが、僕自身は基本的に、子どもの頃から変わっていない。

──シェフやパティシエの仕事をどのように捉えていますか。 

そのとき持てるものをすべて使いこなして、真剣勝負で向き合う仕事。これが料理人やパティシエだと、僕は思っています。お菓子作りは手順ではない。子どものときからの好奇心や、おもろいことを言って周りのみんなに喜んでもらいたい、といったセンス。この感覚が増えることを、僕は「自慢話の更新」と呼んでいますが、これがとても大切。これに技術と味覚、そして時代の切り抜き方の正確さも大切です。さらに、時代の望んでいること、みんなが喜んでくれることを提示することです。それが揃えば、ヒット商品も、コンクールでの優勝作品も作れるようになると思います。

クールショコラケイクス
2014年インターナショナル・チョコレート・アワーズのアメリカ大会、ロンドンで開催された世界大会で金賞、銀賞を受賞した3種のタブレット。その美味しさを閉じ込め、冷やしていただく逸品。

人と勝負しなくても、昨日の自分と勝負していたら、次のカタチは見えてくる。

──スタッフに注文することは?

まずは、当てにされる人間になれ、人気者になれ、と言っています。勤めているときに人気者でなければ、独立して人気者になれるわけがない。

──人気者になる秘訣は?

隣で仕事をしているパートさんやバイトさんの人気者になる。ここからのスタートが肝心です。「ねえ、お誕生日おめでとうのカードを書いて。あなたが一番きれいに書いてくれるから」。たとえばバイトさんにこう言われることです。もっと練習して、飴細工の花を飾ってみよう、などといろいろとできるようになってくる。そこには常に相手がいる。相手にもっともっと喜んでもらいたい。そんな想いですね。

──若い頃から海外で活躍したい、と目標を持っていたんですか?

いえ、まったくそんな風に思ってきたわけではないです。子どもの頃は「おかん(母)を喜ばせたい」と思って頑張る。それが僕の常でした。父はケーキ職人で、若くして結婚したおかんは、子育てに自信がなかったので、真面目に厳しく育てた。この母の育て方が僕の根底にある。子ども心にも母に応えようとした。19 歳で入社した時の面接で「この会社の社長になりにきました。母に喜んでもらいたいから」と言った覚えがあります。そして社会に出てからは、相手の期待以上のものをプレゼンテーションしていく。この結果が現在の僕を形成したと思います。

──大人は入店禁止、子どもたちのためのお菓子店「未来製作所」をオープンなさいましたが、そこには、小山さんの子どもたちへの想いがいっぱい詰まっていますね。

子どもの頃に培われる好奇心やセンスはとても重要です。僕には23歳と19歳の大学生と、4歳の子どもがいるんです。この子どもたちと触れ合うのが僕の刺激になっている。

「子どもってパッと面白いことを言って、得意になったりしますよね。このセンスが、物づくり、つまりシェフやパティシエにはとても大切」と語る小山さんは、51歳の今もこの感覚を失わない。

目の前にあることを120%楽しむ習慣をつけよう

幼稚園や小学校でもお菓子作りの教室を開きますが、子どもたちには、夢を持ってもらいたい。でも、夢を分解して具体的な目標に落とし込む力を養わないと、夢は絵空事で終わってしまいます。そうならないためにも、子どもたちには、「目の前にあることを120%楽しめる習慣をつける教育」が必要だと思っています。これは大人にも当てはまりますが……。「未来製作所」では、子どもたちにこのことを体感してもらいたい。僕は今、つくづく思います。料理人やパティシエは、人間の生き方の根源にまで触れることのできる、奥深い仕事だと。

パティシエ エス コヤマの敷地内には、2013年12月、大人は入店禁止の子どものための洋菓子店「未来製作所」がオープンした。

Susumu Koyama
1964年京都府生まれ。大阪あべの辻調理師専門学校卒業後、「スイス菓子ハイジ」入社。2000年に独立、3年後に「パティシエ エス コヤマ」を開く。「サロン・デュ・ショコラ・パリ」で最優秀ショコラティエ賞を 3 度受賞するなど、世界的なコンクールで次々と最優秀賞を受賞。

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民輪めぐみ=インタビュー 長瀬広子=構成 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国2015年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2015年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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