海外のプラントべース事情 Bangkok


野菜にプライオリティを置いた食文化が息づくバンコクの、プラントベース事情をのぞいてみよう。

タイのプラントベース普及はグローバルとローカルの融合が鍵

 国土の約46%が農地で、食料自給率は150%を超える農業大国のタイ。タイ料理にはニンニク、唐辛子、生姜、レモングラス、カフィアライムなど大量のハーブや香味野菜が使われるため、一般家庭の食卓においても野菜は欠かせない食材だ。

 中でもタイ人のソウルフードと言われているのが、屋台から高級レストランまで、どこでも目にすることができる「ナムプリック」。日本のおかず味噌のような感覚で、辛いペーストに大量の野菜や揚げた魚をディップして食べる。この食習慣があるため、タイ人には老若男女野菜好きが多い印象だ。市場にも日本では見かけない種類の野菜が数多く並ぶ。

レストランでナムプリックをオーダーすると、中央のナムプリックの小皿を取り囲むように大量の付け合わせ野菜が添えられる。

 近年の健康志向の高まりによって、一般消費者の間でも野菜の品質に注目する人が増えてきた。小売大手のテスコ・ロータスやBigCが展開するスーパーマーケットでは野菜にQRコードのシールが貼られ、消費者が生産・流通の情報を検索できるトレーサビリティシステムが運用されるなどサプライチェーンの透明化を進めていたり、オーガニックの自社農園で生産された野菜を売りとするプラントベースのレストラン・カフェも首都バンコクを中心に増加傾向にある。

 これら世界的なプラントベースの流行をフォローする一方で、タイ東北部の貧しい農村部で何世紀も続いている「昆虫食」の習慣も、豊富なタンパク質とサステナブルな食糧供給源として再注目されている。タイでのプラントベースはグローバルとローカルの食文化の融合・共存に普及の鍵がありそうだ。

小売店ではプラントベースの調味料・加工品が充実

バンコクには、欧米や日本だけでなく近隣のマレーシアやインドネシア、中東諸国などからの移民も多いため、消費者の属性や嗜好に合わせた様々な小売店の選択がある。どの業態でも近年プラントベースの調味料や加工食品が充実しており、大手調味料メーカーのDek Somboon社では、ベジタリアンやハラル対応の製品も充実。オイスターソースの風味をマッシュルームで代用したマッシュルームソースは多くのスーパーで購入できる。

中華系タイ人の間で広まる菜食週間「ギンジェー」

タイでは毎年9月末から10月初旬にかけて「ギンジェー」と呼ばれる菜食週間が行われる。主に中華系タイ人の間で広まる習慣で、期間中は肉、魚、卵、乳製品などの動物性食品や五葷(にんにく・ネギ・ニラ・らっきょう・あさつき)などの食材やアルコールを避けて身を清める。中華街には「􀀁􀀂齋􀀁」(ジェー)と書かれた黄色い旗の屋台が並び、肉や魚を植物性食品で代用した「􀀁􀀂齋」料理を楽しむことができる。

外国人や健康志向のローカルに人気「BANGKOK CITY DINER」

ヴィーガンの夫婦がオープンした100%プラントベースのレストラン「BANGKOK CITY DINER」では、タイ、日本、ニュージーランド、アメリカといった自身のルーツを反映させた多国籍メニューが人気だ。濃厚な胡麻スープに、ナッツやマッシュルームで代用したひき肉、数種の野菜から作られたヴィーガンエッグをトッピングしたTAN TAN RAMENや、ヴィーガンチーズを使ったトムヤム味のマカロニチーズなど独創性の高い料理を楽しめる。


text 小松優美

本記事は雑誌料理王国312号(2020年10月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 312号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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