イタリア食材店「PIATTI」岡田幸司さんによる「パルミジャーノ・レッジャーノセミナー」

イタリア食材店「PIATTI」岡田幸司さんによる「パルミジャーノ・レッジャーノセミナー」

2022年8月29日、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会主催によるセミナー「実践パルミジャーノ・レッジャーノ ゲストの感動を呼び自らも稼げるチーズのリアルな話」が、東京・渋谷にある山手調理製菓専門学校にて開催された。

ゲスト講師として登壇したのは、目黒区駒場にあるイタリア食材厳選のお店「ピアッティ」の店主・岡田幸司さん。イタリア食材やその取り扱いに精通し、本場の伝統的な方法でパルミジャーノ・レッジャーノをホールで扱うことのできる職人だ。

本セミナーは、開催中(2022年10月1日~10月31日)の「パルミジャーノ・レッジャーノ フェア」開催に向けたもので、フェアに参加する飲食店関係者を中心に約30名が参加。店舗での温度管理や具体的な原価率、提供方法といった実践的な内容についてデモンストレーションなどを通して学び、パルミジャーノ・レッジャーノ本来のおいしさや価値を改めて体感する内容となった。

イタリアチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは

イタリアチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは

パルミジャーノ・レッジャーノは、イタリアチーズの王様とも称される最高級の大型ハードチーズだ。熟成期間が最低12か月と法律で定められており、一般的には24か月~36か月間と長い時間をかけてゆっくりとつくられる。

北イタリアの限られた地域にて職人の手によって作られており、その製造方法や生産地域については厳格な規定がある。それらを満たし、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会の審査に合格した者しか認定されたものしか「パルミジャーノ・レッジャーノ」の名を名乗れない。

「この名前にはとても大切な意味があります」と岡田さんは話す。

パルミジャーノ・レッジャーノは、イタリア語で「パルマの、レッジョ・エミリアの」という意味を持つ。エミリア・ロマーニャ州のパルマとレッジョ・エミリアが発祥の地であることからその名が付いた。

イタリアチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは

「牧草地帯が広がる北イタリアの中でも、パルミジャーノ・レッジャーノの生産地域に指定されているパルマ、レッジョ・エミリア、モデナの各県とボローニャ、マントバ県の一部という限られた地域には、チーズを作るのに良い葉っぱが生えています。何が良いのか。それは葉や土に育まれる微生物、バクテリアです。その草を食べた牛から出たお乳でつくられるものだけが、パルミジャーノ・レッジャーノになれるんです。

この名前が付いたのは、この土地の気候や風土があってこそのチーズだから。だからこそ、パルミジャーノ・レッジャーノは“自然であること”にとても厳格で、自然環境を守ることもその使命になっています。このチーズを提供するプロとして、この名前の背景はぜひ覚えて帰ってください」

イタリアチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは

約1000年前から作られ続けているパルミジャーノ・レッジャーノだが、その歴史は模造品との戦いの歴史とも言える。パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会が中心となり、伝統や製造方法、品質、価値を守るためにさまざまな工夫がされてきたが、そのひとつがチーズの周りに付けられた模様だ。

「チーズを成形する際にバンドを筒状にした枠型にはめるのですが、その内側に突起で文字が入っていて模様がつきます。バンドも協会が生産者に貸与するもので、模様には正式なパルミレッジャーノ・レッジャーノであることを示す重要な情報が含まれています。

まずは生産者。協会が生産者一軒一軒に与えた番号が振られています。続いて製造月。これは模型ですが、2012年3月に製造されたものですね。中央にある焼印は協会が検査をした印で、第三者機関がこのチーズの品質、生い立ちを担保した証明になります」

イタリアチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは

パルミジャーノ・レッジャーノの熟成を目で確認できるのが、チーズの表面にある白い斑点だ。熟成の成果のひとつであるアミノ酸の結晶だが、それがチーズ全体にまんべんなく渡っているのがチーズの王様と呼ばれる所以ともいえる。「たくさんの種類のチーズがありますが、チーズの王様として君臨し続けるのには理由がある、知れば知るほどすごいチーズなんです。」

パルミジャーノ・レッジャーノは熟成に長期間がかかる特性とその高い価値から、地元の銀行でチーズを担保に生産のための運営資金を借りることができる。「イタリアではひとつの財産として扱われているんですね。そのときに本物であるかを見極める際にもチーズの模様が使われます。実はこの文字には、時折変えられるシークレットコードが隠されているんですよ」

岡田さんは、パルミジャーノ・レッジャーノの長い歴史や伝統、製法についての話をすると何時間あっても足りないと笑い、概要についての説明はここで終えた。

パルミジャーノ・レッジャーノの正しい提供の仕方

パルミジャーノ・レッジャーノの正しい提供の仕方

「さて、ここからはみなさんに実際に手を動かしてもらいたいと思います。手で覚えるということはとても大事なこと。その感覚を少しでも覚えて帰っていただければうれしいです」という岡田さんの言葉でデモンストレーションがスタートした。

今回のセミナーでは、カッティングボード、アーモンドナイフ(パルミジャーノ・レッジャーノ・ナイフ)、パルミジャーノ・レッジャーノ(150グラム)、ドライフルーツ(イチジク、レーズン)、フレッシュフルーツ、ナッツが事前に各席へと配られた。

「みなさんの手元にあるパルミジャーノ・レッジャーノはセミナーの1時間ほど前に冷蔵庫から出しました。まだ少し冷たいはずです。この後実習で使いますので、胸ポケットなどに入れて常温に戻しておいてください」

パルミジャーノ・レッジャーノの正しい提供の仕方

パルミジャーノ・レッジャーノを提供するにあたり、大切なことが大きく二つある。一つは温度、もう一つは大きさだ。まず温度は、室温と同じぐらいに戻しておくこと。パルミジャーノ・レッジャーノが常温に戻っているかどうかは、自分の手で感覚を掴むしかない。

「今日は直接触ってその感覚を覚えてください」と、24時間かけて室温に戻した1キロブロックのパルミジャーノ・レッジャーノが各席へと回し渡され、参加者はその温度と感触を確かめた。

「触ってみていかがでしょう。触ったときに冷たい感触が手のひらに返ってこないのがわかりますか?これがとても大事なんです。第一段階としてチーズの温度がわかっているどうかで、チーズの味わいがまったく変わってしまうからです」

パルミジャーノ・レッジャーノの正しい提供の仕方

冷たい状態ではチーズの表面がサラッとしているが、常温に戻ったサインとして表面がべたっと濡れてくる。ぬるぬるとした感触に不安になる人もいるが、表面の油脂が溶けているだけなのでまったく問題ない。ぬめりはキッチンペーパーなどで包んで、手でさすってささっと拭き取ればOKだ。

「お客さんの前でここから見せるといいと思います。常温に戻ったチーズはふわ〜っと香りが立ち上がってきます。準備の段階からチーズのいい香りをお客さんに届ける。そうすると自然にお客さんの期待が高まる。素晴らしい演出になります」

パルミジャーノ・レッジャーノの正しい提供の仕方

もう一つの大切なことが提供する大きさだ。

「パルミジャーノ・レッジャーノは“切る”のではなくて“割る”んです。チーズにナイフを刺して柄だけを倒すと亀裂が入り、チーズが自然に割れます。この時、ゆったりと大きめに割れるようにナイフを入れていくことが大切です。きれいに割ろうとせずにチーズに委ねることがポイントでしょうか」

カットする時に重要なのもまた温度だ。チーズが冷たいとナイフがうまく入らず、無理に力が入るので割れ目が美しくない。常温ではナイフがスーッと入り勝手に崩れていくため、ゴツゴツとした自然で表情豊かな割れ目になる。

大きさの目安はひと口で食べきれないくらいのサイズ、重さで言えばひとつ20グラム程度の塊だ。日本では小さなダイス状や薄切りで提供されることも多いが、それではパルミジャーノ・レッジャーノの醍醐味が楽しめないと岡田さんは言う。

「パルミジャーノ・レッジャーノの良さは何か。チーズのやわらかい食感とちょっとジャリッとした食感が口の中でバランスよく感じられることです。ジャリッとするのは先ほどお話したアミノ酸の結晶の部分です。薄切りや小さな欠片だとその食感が感じられないんです。

ひと口で食べきれないサイズで提供すれば、必然的にチーズをかじらなくてはいけない。食感の違いが楽しめるだけでなく、口の中で大きな断面が初めて空気に触れるので香りがぶわっと広がり、パルミジャーノ・レッジャーノならではの豊かさがしっかりと感じられます。

ここでも大事なのが温度なんです。常温だからチーズをゆっくりと噛むことができて、柔らかさの中にジャリッと明らかに違う食感があることに気がつける。冷たいと硬いため食感の違いも感じられず、味も香りも広がらない。温度が適切であるかどうかで、チーズのおいしさが歴然と違ってくるんですね」

一通りのやり方を披露した後には、参加者全員が実際にナイフを使ってチーズを割り、カッティングボードに盛り付けをする実習が行われた。岡田さんは客席を周り、チーズの大きさやナイフの入れ方、美しい盛り付けのコツなどについて一人一人にアドバイスを行なった。

教室中が芳醇なチーズの香りに包まれる中、パルミジャーノ・レッジャーノと同じエミリア・ロマーニャ州で生産されるスパークリングワインのランブルスコが配られた。参加者は自分で盛り付けたチーズをかじり、その味わいや食感などを確かめながら試食とマリーアジュを楽しんだ。

「パルミジャーノ・レッジャーノにはランブルスコのような少し甘味のある飲み口のワイン、シュワっとキレがあるスパークリングが最もいい組み合わせでしょう。ノンアルコールの場合も少し甘味のある炭酸系がよく合います。次の料理への期待感が高まり、弾みになってくれます。逆に重めのボディを合わせるとチーズと喧嘩してしまうので気をつけましょう」

実習後には質疑応答の時間が設けられ、さまざまな質問が飛び交った。今日作ったプレートの具体的な原価や利益率をはじめ、外側の部分の使い方や熟成期間の違いなどについて丁寧に解説され、保存方法や店での扱い方のコツ、賞味期限・消費期限の考え方についても伝えられた。

もともと保存食として作られたパルミジャーノ・レッジャーノは、手入れをすれば常温での長期間の保存も可能だが、店で扱う場合は300〜500グラムなど店舗で1日に提供するサイズへ小分けにして、真空パックあるいはアルミホイルで包んで冷蔵保存すると扱いやすい。

「使いきれなかったチーズをまた冷蔵庫に入れてまた常温に戻して、と繰り返しても問題ない。乾燥して硬くなる部分がどうしても出てくるので、その部分は削って粉チーズとして使ってください」と補足した。

イタリア食材店「PIATTI」岡田幸司さんによる「パルミジャーノ・レッジャーノセミナー」

セミナー後、岡田さんに改めて話を伺った。

「想像以上にみなさんが真剣に聞いてくださった。言葉だけの学びよりも、実際に手を動かしてそれを食べて感じること、理解できることはとても大きいので、有意義な内容が伝えられたと感じています。それぞれの店のスタイルに溶け込ませて、うまく使っていただければ嬉しいですね。

コロナの影響で自宅時間が増えたことで、とくにチーズやワインなどの嗜好品に関して以前よりもエンドユーザーの知識や経験が増えたと感じています。その中でこういう説得力のある素材をずばりと提供することは、お客さんに伝わると確信しています。

1000年の歴史があって今に至るものの説得力、それを使わない手はありませんよね。原価率も無理なく簡単にできるけれど、案外やっているお店はとても少ない。他店との差別化を図りたい、自分の店の売りをつくりたいと考えている方は、とりあえずやってみていただきたい」

text・photo:君島有紀

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