二品目はキジのスープ仕立て「ブイヨンドゥフザン」。吉野さんが「ロアラブッシュ」のシェフを務めていた1989年に上梓したレシピ本『シェフ・シリーズ野生の恵み』で紹介した料理で、現在では当時のレシピに改良を加えて作っているという。味を加える「コンソメ」ではなく、出汁そのものである「ブイヨン」というのがポイント。
キジのガラをたたいて鶏の出汁に入れ、香味野菜とともに弱火で分ほど煮込む。水ではなく鶏の出汁で煮るのは、よりしっかりとした味わいにするため。香味野菜はスープの味わいに深みを出しマイルドにしてくれるが、ここではあえて量を控えめにし、キジの風味がより引き立つようにする。アクを取り除きながら、火が強く入りすぎないように注意しつつ丁寧にキジの出汁を引いていく。これを紙で漉して塩で味を調えれば、澄んだキジのブイヨンができ上がる。
具材はキジもも肉のシューファルシとキジ胸肉のムニエルに、鶏のクネル。キジもも肉のシューファルシはたたいて平らにしたもも肉で生ベーコンを包み、さらにチリメンキャベツで包んで筒状にしたものをラップで包んで茹でたもの。キジ胸肉は、ほんのりとバターの香りをつけ、温める程度にムニエル。「状態の良い野生のキジは、生に近い状態で食べてもおいしい」と、ジビエを知り尽くした吉野さんならではの火入れだ。鶏のクネルは、鶏のムースとパナード、生クリーム、塩コショウとタイムをよく合わせ、鶏のブイヨンでクネルにして火を入れる。シンプルに鶏のムースでもよいが、今回はあえてクラシックなクネルにしたという吉野さん。クネルは魚や伊勢エビなど、さまざまな食材を使って発展させることができるので、ぜひ覚えてほしいという。
ブイヨン ドゥ フザン
美しく贅沢なキジのスープ仕立て。1989年に初めて作った、「コンソメではなくブイヨンで」という吉野さんのこだわりが詰まった一皿。純粋で濃厚なキジの味と香りを楽しめる。
彩り豊かな野菜とともに具材を盛り付け、キジのブイヨンを注ぐと、たちまち芳醇な香りが立ちのぼる。ここにスライスしたトリュフをあしらえば、贅沢な一皿の完成。いかに純粋なブイヨンを作り、キジの味と香りを楽しんでもらうか。吉野さんのこだわりと技術が生んだ、「キジのエッセンスを飲む」料理だ。
「フランス料理で大切なのは、何と言っても味と香り。私はあくまでもフランス料理人としてフランス料理の伝統を大切にし、今からでもまた本場フランスに戻ってやってみたいという思いを持っています。いつもそういった気持ちを忘れずに仕事をしていますし、スタッフにもそれを伝えているんですよ」と吉野さん。つねに素直に謙虚に、新しいことを学ぼうとする姿勢が大事だと教えてくれた。苦労の末、自分が打ち込めるものとして見つけた料理人の仕事を愛し、その道を歩んできた吉野さん。これからもその技術を磨いていく。
ひとつひとつの工程のなかに、これまで吉野さんがフランス料理人として磨き続けてきた技術の真髄が感じられる。緊張感のなかにも多くの学びが得られる時間となった。
吉野建/Tateru Yoshino
1952年鹿児島県生まれ。
1997年パリに「ステラ・マリス」を開店しミシュランの一ツ星を獲得した。日本でも「レストラン タテル ヨシノ」を展開するなど、幅広く活動している。
レストラン タテル ヨシノ 銀座
東京都中央区銀座4-8-10
PIAS GINZA 12F
03-3563-1511
● 11:30~14:00LO、18:00~21:00LO
● 元日休
● コース 昼5000円~、夜10000円~
● 58席
www.tateruyoshino.com
河﨑志乃=取材、文 今清水隆宏、岩本栄作=撮影
本記事は雑誌料理王国284号(2018年4月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は284号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。