オリーブオイルにまつわる“伝説”の真偽 ~ONAOO公式オリーブオイル講座 オリーブオイルを識って料理に活かす 第9回~

イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。第9回はオリーブオイルにまつわる“伝説”の真偽。

イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。正しく識り、品質の良し悪し、味わいの違いを理解して料理の可能性を広げる一助を目指します。

オリーブオイルは体にいい、美味しい、でも、漠然とした知識しかない、という人は少なくない。それゆえ、多くの“一般知識”が定着しているが、その真偽の怪しいものもある。ここでは巷で流布している嘘か誠かのオリーブオイルにまつわる認識の正誤を見てみよう。昔からの言い伝えでも、正しいものとそうでないものがある。例えば、「苦いオイルは腐ったオイルだ」は使用禁止レベルだ。

●緑であればあるほど良いオリーブオイルである→間違い

オリーブオイルの色は品質を表すものではない。さまざまな要因から色は左右される。オリーブの実の熟し具合、品種、製造環境、保存環境などによって違ってくる。一般的に、濃い緑色のエクストラヴァージン・オリーブオイルは、収穫初期に搾油されたもので、香りは強く、抗酸化物質も多い。しかし、色が黄金色に近い緑でも高品質のエクストラヴァージンもある。ゆえに色で品質を判断してはいけない。

●ヴァージン・オリーブオイルはエクストラヴァージンに比べて品質が劣る→正しい

ヴァージンの場合、酸度は2%以下と決まっているが、90%まで精製オイル(化学処理による脱臭、脱色したオリーブオイル)の使用が認められている。不味くはないが、非加熱で使う場合はエクストラヴァージンが良い。これは正しい考え方だ。EUのルールでも、最上級というカテゴリーはエクストラヴァージンにのみ認められている。ヴァージンも100%オリーブ純正だが、風味は乏しいのでそのまま非加熱の調味料として使うには不向き。

●オリーブオイルは熟成するとより美味しくなる→間違い

チーズやワインなど熟成させると風味が増す食品とは違い、オリーブオイルの風味は時間の経過とともに落ちていく。香りが弱くなり、酸化が進む。一方で、オリーブオイルには賞味期限があるが、それは絶対的なものではない(期限が過ぎたからといって食べられなくなるわけではない)。とはいえ、オリーブオイルは新鮮であればあるほど良い状態で味わえることを忘れずに。

●ピリピリする刺激はオイルの酸度が高い→間違い

オイルの辛味は酸度とは無関係である。辛味は未熟な実を搾油することで生まれる特徴で、酸度は味覚としては感じられないが、その度数が低いほど質が高いことを示す。また、辛味・苦味の強いオイルほどポリフェノールを多く含むことを表している。すなわち、体に良いのは辛味・苦味の強いオイルである、とも言える。

●風味の強いオイルほどカロリーが高い→間違い

オリーブオイルの味とカロリーに相関性はない。一方、風味の強いオイルであれば料理にかけるなどの使用量は控えめになる。結果的にカロリー摂取が抑えられる。

●エクストラヴァージン・オリーブオイルは揚げ物に向かない→間違い

向かないどころか、揚げ物に最適である。油で揚げる時に気をつけるべきは発煙点、油から煙が発生する温度である。オイルに含まれる不純物が燃えて煙が出るのであり、つまり、発煙点が低いオイルは精製度が低いことを示す。エクストラヴァージンは発煙点が高く、揚げ物に向いていると言える。しかし、オリーブオイルの強い風味は他の素材の味を隠してしまうこと、値段が高いことも考慮しなければならない。

●冬に凍るオイルは、エクストラヴァージンの証→間違い

冬のような低温下では、オリーブオイルの底の方に固形物が現れることがある。それは、飽和脂肪酸を含んだ混合物である。エクストラヴァージンでもそうした現象が見られることは少なくないが、それがエクストラヴァージンの証ということはない。エクストラヴァージンに分類するための指標に低温下での結晶化というものはない。重要なのは、この結晶化を発生させないこと。温度が上がると結晶は消え、品質的には問題ないが、わずかに酸化が進んでしまうのだ。風味が早く落ち、ノンフィルタードのオリーブオイルの場合、特有の濁りが消失する。

●透明度の低いオイルは良質のオイル→間違い

透明度が低い、濁ったオイルはフィルターをかけていないため、搾油して間もないうちは質が良くても、不純物のせいで酸化、酸敗、嫌気性発酵などが早く進む。

●エクストラヴァージン・オリーブオイルは冷蔵庫で保存してはいけない→間違い

冷蔵庫で保存することはできるが、低温と室温の温度差ショックが続くため、ポリフェノールの減少、風味の低下が早く進む。

●オリーブオイルを加熱すると活性酸素が発生する→正しい

オリーブオイルだけでなく全てのオイルに同じことが言える。ただし、ポリフェノールは活性酸素を抑える働きがあり、その点においてエクストラヴァージンはヴァージンや他のオイルよりも優れていると言える。

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ひとことポイント

オリーブオイル、とりわけエクストラヴァージンについては、その色が濃い緑色であるほど良いものだというイメージが根強く定着している。しかし、値段が安いのに濃い緑色をしたEVOはほぼ間違いなく美味しくない。その色がどこから来ているのかわからないが、味はとてもEVOとは言い難い。

オリーブオイルで揚げ物をすることについては、イタリアでも議論の対象である。オリーブオイルで揚げるとオイルの風味が残る、カラッと揚がらないなどという反対理由があるが、上質なオリーブオイルなら風味は残らず、揚げ方を間違わない限りカラッと揚がらないということはない。問題は質の良くないオリーブオイルを使うところにある。酸化していたり、古いオリーブオイルを使えば美味しくできないのは当然である。また、高価なオリーブオイルを揚げ物に使うのはそもそもハードルが高い。凡庸なオリーブオイルで揚げ物をするくらいなら、揚げ物に適した手頃な価格の綿実油などを使う方が良い。

イタリアに比べてオリーブオイルが高価な日本では、調味料としての使い方が一番理にかなっている。マイルドなライト・フルーティ、青い草の香りがするミディアム・フルーティ、苦味、辛味を感じられるインテンシブ・フルーティの3種類を用意して料理に応じで使い分けるのも良いだろう。

text・translation:池田愛美 Ikeda Manami
ONAOO所属プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスター

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