食事だけではなく、過ごす時間すべてに能登の自然や営みを感じる新名店 ヴィラ・デラ・パーチェ 22年8月号


目の前は凪いだ海、背後にあるのは森を抱いた緑深い丘。はじめてこの場所に立ったとき、運命的なものを感じたという平田シェフ。能登に魅せられ移り住んで6年。その素晴らしさを、料理を通して伝えたいと考え抜いて行き着いたのが、オーベルジュという選択だった。

「うちは景色が売りなんです」。料理の取材だというのに、のっけからこう言い放った平田明珠シェフ。確かに、目の前には海藻がゆらめく静かで透明な海が広がり、天気が良ければ立山連峰も望める。

静かな波が打ち寄せる砂浜まで、歩いて15秒。

「料理はもちろん、飲み物や食器やカトラリー、インテリア、さらにここに来るまでにお客さんが見る景色やロケーション、そこでどんな時間を過ごすのか。そのすべてで能登を感じてもらえて、はじめて自分の料理だと考えています」と思いを語る平田シェフが、能登に移り住んだのは今から6年前、2016年のこと。きっかけは、漁師2人と農家1人、能登を代表する生産者との出会いだった。食材への興味が、土地へのリスペクトに変わる。それが移住して店を開くという決心を後押しした。

最初は、市街地から車で10分足らずの郊外にイタリア料理店を開いた。洗練されたイタリアンは能登では珍しく、評判になるが、働いていた東京の店のように繁盛するわけではなかった。「いい食材を新鮮な状態で使いたいけれど、毎回少量持って来てもらうのは申し訳ないと思っていて、たまたま山に入ったら、注文していた野草が生えていたんです。自分で採れたら、その分魚に原価をかけられるし、野草のおもしろさにはまっていきました」

シェフの料理は、森の中や野趣な庭で食材を採取することから始まる。
ブーケ
最初に運ばれてくるのは、その日に採れた野草をくるりと束にした、掌サイズのウエルカムブーケ。口の中に野草の香りと共に、野焼きを思わせる藁で燻製したヘーゼルナッツクリームとサワークリームが広がる。

野草の可能性を探るのと並行して、調理法にもいろいろ挑戦していく。「数種類のソースでフレンチ風にしてみたり、和食をとり入れたり。前の店では“自分だけしか作れない料理を作って認められたい”という思いが強かったと思います」。そんな迷える平田シェフがある日、今の場所と運命の出合いをする。「雄大な海が広がるこの場所に来て、スランプもありましたが、今はこの場所でしか作れない料理がしたい。例えば漁師や農家の方々が暮らしの中で担う役割があるように、私は料理でその役割を担いたいのです」。このような思いから、自生の山菜や野草、地元の食材をとり入れた現在の料理が出来上がった。


火入れした野菜や生野菜にハーブ、野草、花…と、この日は全部で73種類をひと皿に。酸味や苦味、塩味を考えて盛り込むスペシャリテ。塩士ソムリエのセレクト、イタリア・サルデーニャ州のワイナリー「メイガンマ」の白ワイン「ビアンコ・クアルト2019」。
赤烏賊 蕨 虎杖
ミラノで食べて感動した甲イカとラルドの料理を能登の食材で再現。赤イカとラルドを重ねた内側は、ワラビとほのかな酸味の野草イタドリ、アンチョビ代わりのいしりを加えたサルサベルデ。浜大根の花の辛味がアクセント。
「本物の火が一番」。肉の火入れは基本的に備長炭で行うのが平田流。
自然豚
緑豊かな里山で放牧された「ブーブーファーム」の豚肩ロース。熟成度合いを見極めながら、脂と筋を取り除いて炭火焼きに。端肉は山椒を効かせたサルシッチャ。自生する三つ葉で巻いて、破竹や山椒の実、椿を添える。
泥鰌 クレソン
店の近く、山の湧き水で育ったドジョウを、目の前の海で潮が引いたときに採るアオサを衣に加えてゼッポリーニに。同じ湧き水に自生しているクレソンと山椒マヨネーズを添え、山と川と海の香りをひと皿に。

店を移転するにあたり、「庭で野菜を作ったりしながら生活できる一つの集落のような空間を作りたかった」とオーベルジュにすることを決めたのだが、長時間滞在してもらうことで、経営的にもメリットが大きいとシェフは言う。
「単価が高くなるのは当然ですが、それだけではないんです。朝食はミネストローネや小さな肉料理などを出しているのですが、夕食の食材をうまくまわすことで、ロスを減らすことができます。うちのように小規模な店が地元の生産者さんにも還元しながらいいものを手に入れるためには、オーベルジュという形態はなかなかいいんですよ」

.宿泊は1日1組限定。ウッドスプリングベッドや天然素材のアメニティを選んだ。

食材に関して心がけている事がもう1つ。山や野に分け入って食材を探すとき、「なるべく自然に負担をかけないように」と、むやみに採りすぎることはしない。平田シェフが目指すのは、能登の自然と共生しながら、料理をつくることなのだ。

平田明珠(左)

1986年東京都生まれ。大学卒業後、都内イタリア料理店で修行。2016年石川県七尾市に移住し、リストランテ「ヴィラ・デラ・パーチェ」を開業。2020年10月、現在の場所、旧塩津海水浴場跡地に宿泊施設を併設したオーベルジュとして移転・リニューアルオープン。

塩士卓也(右)

J.S.A.認定ソムリエ・エクセレンス。金沢市内のホテルを経て、現職。良き理解者、ブレーンとしても平田シェフを支えている。

石川県七尾市中島町
塩津乙は部26-1
TEL 0767-88-9017
チェックイン16:00~18:00、
チェックアウト10:00
水木休

text: Takako Tsuguma photo: Naoki Mizuno

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