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世界のトップシェフに聞く食の未来!ガストン・アクリオさん


遙か遠くの夢を見て焦らないこと。我々も最初から立派な店が持てたわけじゃない。

 地球の裏側、南米ペルーからG9メンバーのひとりとして来日したガストン・アクリオ。日本で彼の名前を知る人は少ないが、ペルー料理の伝道師として、国内外で精力的に活動するラテンアメリカを代表するシェフである。1994年に夫人とともに開いたリマ市内のレストラン「アストリド&ガストン」は、「世界のベストレストラン50」に、ペルーのレストランとして唯一ランクイン。未知なる南米の食文化が、世界へ飛び立とうとしているのだ。

そんな彼の活動は、皿の上の料理にとどまらない。リマの貧困地域の若者に夢をあたえるべく、2007年にパチャクテクと呼ばれる砂漠の地に料理学校を設立した。この活動模様は、フェラン・アドリアと共演するドキュメンタリー映画「ペルー・サベ」でも描かれている。ガストンが料理学校を作ったことで、いままでサッカー選手を夢見た若者たちは、目を輝かせて包丁や鍋を持ち、料理人として生きる喜びを見出すようになった。ガストンのこうした活動がペルー料理界のみならず、ペルー社会の経済活動に拍車をかけているといっても過言ではない。

新鮮な魚介類が豊富なペルーで、古くから親しまれる「セビーチェ」。魚介類を柑橘類のレモンなどで和え、野菜とともにシンプルに提供する料理で、中南米の人気も高い。

日本料理とペルー料理が融合した「Nikkei」に注目


「ペルーには日系の人が多く住んでいますが、なかでも沖縄から日本の食材や文化を携えて移住してきた人が多い。私の友人にも沖縄出身者がいます。ペルー料理に大根、ネギ、ワサビ、味噌、みりん、昆布などを取り入れてミックスさせた料理を、ペルーではひとつの料理ジャンルとして〝Nikkei〞(ニッケイ)と呼んでいます」

フェラン・アドリアのビジネスパートナーである弟、アルバート・アドリアが、マドリッドにNikkei料理の店を出す話はすでに紹介したが、どうやら日本料理はペルー料理とタッグを組むことで、ますます海外で脚光を浴びることになりそうだ。

アストリド&ガストンは、現在ペルー以外にもチリやアルゼンチン、メキシコ、スペインなど8カ国で展開。このほか前述のNikkei料理の店や魚介料理を売りにしたセビーチェ専門店、イタリア風ペルー料理、中華風ペルー料理などを国内外で広く展開する。国内だけでフランチャイズ店も含めて約40軒はあるというから、彼は有能な経営者でもあるようだ。

多店舗展開するうえで、彼はスタッフにどのような指揮をとっているのだろう?
「私は各店舗の店のデザインとコンセプトを作るわけですが、原則的な部分を決めたら、あとは若い人たちを信じて彼らに任せています」


そんな彼が料理を作るうえでモットーとするのは、料理の源を決して忘れないこと。 「料理というのは競争することではなく、料理人はテレビのスターでもありません。料理というのは、母親が子供に料理を作るように愛情から生まれるもの。食材を愛し、自分の料理を食べてくれる人を愛して作れば、きっとおいしいものが作れるはずなのです」

そんな彼は若い料理人に向けて最後に心強いメッセージを送ってくれた。
「最近、若い料理人たちは、テレビに出られるシェフになりたいとか、立派なレストランを持ちたいとか、いきなりはるか向こう岸にある夢を見てしまう。だから、逆に夢が遠のいてしまう。我々も最初から大きなレストランを経営したわけではありません。毎日毎日、長時間働き、週ごとにお金をもらったら、一週間の経費をやっとまかなえるぐらいの生活をしてきました。焦らずに時間をかけて学び、絶対に夢に到達できると信じて頑張ってほしいと思っています」

ガストンアクリオ

Gastón Acurio
ガストン・アクリオ
1967年ペルー、リマ生まれ。大学で法律を学ぶためにスペインに渡る。その後、料理人を志し、パリのコルドン・ブルーで料理を学ぶ。1994年リマに夫人と「アストリド&ガストン」をオープン。魚介専門店「ラ・マール・セビチェリア」 をNYほか6店舗でフランチャイズ展開するほか、ペルー料理を中心にさまざまな業態のレストランやカフェを手がける。

ペルーでポピュラーな「Nikkei」とは?
左写真はガストン・アクリオが手がけるリマのセビーチェ専門店「ラ・マーレ・セビチェリア」のNikkeiメニューだ。「Nikkei」 は日本では聞き慣れない料理名だが、ペルーではごくポピュラーな料理ジャンルのひとつとなっている。日系移民が多く住むペルーには日本料理も普及するが、日本料理とペルー料理が融合した料理を「Nikkei」と呼ぶようになった。ちなみにペルーは中国料理もポピュラーで、ペルー風中国料理を「chifas」(チーファス)と呼び、こちらも庶民に大人気となっている。


沖村かなみ=文 岡本寿、富貴塚悠太=写真 

本記事は雑誌料理王国第220号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第220号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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