沖縄のブランド豚の魅力に迫る「沖縄県産地見学会」を今年も開催


沖縄の食文化に育まれ、注目を集めるブランド豚の認知拡大と消費拡大を目的とした「沖縄県産地見学会」が、今年も東京から3人のシェフを招いて開催されました。健康長寿の源ともいわれる食材の宝庫沖縄県。なかでも豚肉は「鳴き声以外はすべて食べ尽くす」といわれるほど。頭から足先まで、内臓や血液までも余すところなく使いこなす知恵に溢れた、独特の食文化があります。そんなブランド豚の生産地を訪ね、こだわりや食材としての魅力を再発見しながら、医食同源という沖縄食文化の思想に触れたシェフたちの体験をレポートします。

沖縄県産地見学会1日目:「アグー」の歴史とブランドの違いを学ぶ

今回「沖縄県産地見学会」に参加したのは「赤坂 島袋」店主・島袋洋平氏、「CONVIVIO」オーナーシェフ・辻大輔氏、「ON the TABLE CHINESE」店主・平賀大輔氏という3人のシェフ。

一行がまず空港から向かったのは「やんばるあぐー」や「やんばる島豚あぐー」「山城牛」などを販売する株式会社フレッシュミートがなはが営む「豚しゃぶ専門店 我那覇豚肉店」。同社那覇営業所所長の稲嶺健氏に、沖縄が世界に誇るブランド豚の特徴やその歴史などをレクチャーしていただきました。

株式会社フレッシュミートがなは・那覇営業所所長の稲嶺健氏が、アグーの歴史などについて解説

アグーは今から約600年前の14世紀末、明(現在の中国)から琉球王国へ伝えられた黒豚が起源とされています。貴重なタンパク源として、また祝いの席の食材として、王府や上流階級の間で重宝されました。沖縄の風土に根ざし、在来種「島豚」として定着したアグーでしたが、第二次世界大戦後の混乱により数が激減。さらに、大型で発育の早い西洋品種が大量に導入され、豚の改良が行われました。

小型で発育の遅いアグーの頭数は減り、西洋品種との交配による雑種化も進みます。そうして一時は絶滅したと思われていたアグーですが、名護博物館などによる1981年の調査で、約30頭の生存が確認されました。これを受け、沖縄県立北部農林高等学校などが中心になって約10年におよぶ戻し交配及び遺伝子選抜を実施。その中で復元された、純血に近い形質を備えた豚を「沖縄アグー豚」として定義しました。

アグーは、一般的な豚と比較して体格が小さく、その大きさは半分程度です。全身が荒い黒毛で覆われ、背中は弓状に凹み、腹部は地面に近接する体型を呈しています。

「アグーの最大の魅力は、いわゆる“白身”と称される良質な脂身の風味にある」と稲嶺氏は話します。筋肉内脂肪(霜降り)が豊富に含まれており、とろけるような甘みとコラーゲンを多く含んでいます。脂肪の融点は38.1度と、一般的な豚よりも低く、口に入れた瞬間、上品な脂が溶け出します。旨味成分であるアミノ酸(グルタミン酸)は一般的な豚の約2.5倍と高く、コレステロール値は同じ比較で4分の1以下という点も魅力です。

種豚用として飼育されている琉球在来豚アグーのオス

「アグー」は、琉球在来豚であり、100%純血です。琉球王朝時代から存続する沖縄固有の純血黒豚であり、「幻の原種」そのものを指します。希少性が高く、極めて貴重な存在です。それに対し「沖縄アグー豚」は、アグーの歴史の中で雑種化した豚から戻し交配などを行うことで産まれた、この「アグー」に近い形質を備えた豚を指します。そして「沖縄アグーブランド豚」は、JA商標のブランド交雑種です。「沖縄アグー豚」のオスと西洋種のメスを交配させて誕生したブランド豚であり、「沖縄アグー豚」の血統が50%以上含まれ、厳しい品質・肥育基準を満たしたものに付与される名称です。

生産効率の低いという課題を解決するため、肉質がとても優れている「沖縄アグー豚」のオスと、多産で成長が早い西洋種のメスを交配させることで、豊かな旨味を残したまま大量出荷を可能にしたのが「沖縄アグーブランド豚」なのです。

純血アグーのオスと西洋種のメスを交配させて誕生した「沖縄アグーブランド豚」。沖縄県内で一般的に流通しています。

農場ごとに掛け合わせや育成方法を工夫することで、それぞれに個性があるのも「沖縄アグーブランド豚」の特徴です。

レクチャー終了後には、「やんばるあぐー」や「やんばる島豚あぐー」、在来の「アグー」と「沖縄アグーブランド豚」を交配した希少な「島黒(シマクルー)」の3種類の、有限会社我那覇畜産による「沖縄アグーブランド豚」を実際に試食しました。

有限会社我那覇畜産が展開する3種類の沖縄アグーブランド豚、「やんばるあぐー」「やんばる島豚あぐー」と、純血に近い希少な「島黒」を食べ比べ。
それぞれの豚肉の美味しさを最大限に引き出すしゃぶしゃぶは、昆布だしと沖縄ならではのさんぴん茶の出汁を使用。

「ON the TABLE CHINESE」店主の平賀大輔氏は、「赤身がさっぱりとしており、風味豊か。純血に近い島黒は食感も良く、甘味があり、赤身と脂身のバランスが非常に優れている。脂身は重くなくすっきりしていて、やさしい中に存在感のある旨味がありました。バラ肉や肩ロースでチャーシュー、腕肉でシュウマイやワンタンなどの点心をつくっても美味しいと思います」と、そのポテンシャルの高さを評価しました。

「CONVIVIO」オーナーシェフの辻大輔氏は、「同じ沖縄アグーブランド豚であっても各生産者が飼料や飼育環境に工夫を凝らし、多様な種類のブランドを生産していることを知り、大変勉強になりました。脂に臭みがなく、華やかな風味を有し、純血に近づくほど旨味やコクが深まることが印象的でした。イタリアンでもよく脂身は使いますが、背脂のブロックを塩やスパイスで加工する“ラルド”をつくってみたい。血もよく使うのでそれにも挑戦してみたい」と述べました。

「赤坂 島袋」店主の島袋洋平氏は、「島黒は脂の甘味と赤身のバランスが優れていました。沖縄料理のイナムドゥチ(白味噌の汁物)にしたり、野菜と一緒に白味噌や柚胡椒で煮たりしても美味しくなると思います。来年沖縄のホテルでイベントを予定しているので、今回はその時つくる料理をイメージしながら食材を探しています。お出汁、汁物で何らかの料理をつくることができれば。海ぶどうのしゃぶしゃぶも初めて食べましたが、非常に美味しく、何かに活用できれば」と話していました。

平賀氏は、「すっきりとした食感の脂身は、甘味があり、旨味が際立っていた」と評価
辻氏は、「沖縄アグーブランド豚は脂身が軽くさっぱりしており、赤身も美味しいため、用途に応じて純血に近い沖縄アグー豚と使い分けるのもいいのでは」との感想も
島袋氏は、「それぞれ異なる美味しさがあり、大変満足でした。様々な種類があることに驚きました」と述べ、沖縄の豚肉の多様性に感銘を受けた様子
モズク、海ぶどう、島どうふなど、沖縄ならではの食材を使用したしゃぶしゃぶも好評でした

初めて口にする食材の味や食感、自分なりの料理方法を想い描いているであろう、そんなシェフたちの姿が印象的でした。試食後は、様々な部位の入手方法や、皮付きの肉や背脂のブロック、血など、東京では入手困難な部位の入手方法を熱心に相談していました。

この日はその他にも、糸満市西崎町の道の駅「いとまん」へ。約9000坪の広大な敷地に、JAファーマーズマーケットいとまん「うまんちゅ市場」や糸満漁業協同組合「お魚センター」など4つの施設が集結した、観光客にも人気のスポットです。

台風直後で沖縄県産野菜の品揃えは少なかったものの、ゴーヤーやマンゴーなどの人気野菜や果物に加え、沖縄のハーブや島唐辛子、ウンチェー(空芯菜)、モーウイ(赤瓜)、ピィパーズ(島こしょう)、パッションフルーツ、レンブ(ジャワフトモモ)、生モズクといった、沖縄ならではの希少な野菜や果物、魚介類がシェフたちの興味を惹きつけていました。

沖縄の新鮮な野菜や果物が豊富に揃う、地元住民や観光客にも人気のJAファーマーズマーケットいとまん「うまんちゅ市場」
沖縄の野菜や薬草、フルーツなど、初めて目にする食材に目を輝かせていました
沖縄の近海生マグロなどの魚介類をはじめ、刺身や海老の塩焼き、ホタテのバター焼きなど、外国人に人気のメニューも並ぶ糸満漁業協同組合「お魚センター」

また、那覇市首里にある泡盛メーカー「瑞泉酒造」も訪れ、泡盛の試飲を行いました。貯蔵年数による古酒の風味の違いや、ステンレス貯蔵と甕貯蔵の違いなど、いろいろな泡盛を味わう機会を得ました。そして夜は、那覇の居酒屋にて郷土料理やあぐーを含む沖縄食材を用いた創作料理を堪能しました。2次会は株式会社フレッシュミートがなは・那覇営業所所長の稲嶺氏のおすすめで、山羊料理専門店へ。山羊料理に抵抗があったという沖縄出身の島袋氏を含め、参加者全員が想像を上回る美味しさに感銘を受けていました。

瑞泉酒造では新酒や古酒、甕貯蔵酒、樽貯蔵酒など、種類ごとに異なる泡盛の風味の違いを味わいました
飲み比べることで泡盛の魅力と、その奥深さを知ることができました
泡盛の魅力を教えていただいた瑞泉酒造株式会社取締役の佐久本亜也子さん

沖縄県産地見学会2日目:豚肉以外にも、魅力的な食材の宝庫

「沖縄県産地見学会」2日目のこの日は、まず宜野湾市大山の「ハッピーモア市場 トロピカル店」を訪問しました。700軒以上の契約農家から届く新鮮な有機野菜や無農薬・減農薬野菜、県産食材、無添加の惣菜やお菓子、加工品などを取り扱う自然派のファーマーズマーケットです。

「マンゴーの価格の低さに驚きました。牛肉と一緒に炒めると美味しいので、沖縄の人にもぜひ試してほしい。ピィパーズは中華料理の調味料としても活用できそうなので、楽しみにしています」と語る「ON the TABLE CHINESE」の平賀氏。

「シワシワになったパッションフルーツが完熟状態で美味しいことを知り、大変驚きました。レンブもどのような風味なのか、非常に興味を惹かれました」と語る「CONVIVIO」の辻氏も、ピィパーズに高い期待を寄せていました。

新鮮な有機野菜や県産食材、無添加の惣菜やお菓子、加工品などを販売する自然派のファーマーズマーケット「ハッピーモア市場 トロピカル店」
パイナップルの新品種「ゴールドバレル」やパッションフルーツが特に好評でした

シェフたちは、初めて見る野菜や珍しいフルーツに目を輝かせ、一つひとつ手に取り、香りをかぎ、思いを巡らせていました。検疫の関係で持ち帰ることができない野菜やフルーツもあり、大変残念そうにしていましたが、糖度の高さが魅力の新品種のパイナップル「ゴールドバレル」やパッションフルーツ、島オクラ、島ニンニク、ジーマーミ豆腐(落花生の豆腐)、海ぶどう、ピィパーズなど、箱いっぱいに食材を詰め、発送していました。

ゴーヤーや冬瓜などのおなじみの野菜から、珍しい沖縄の野菜や果物が並んでいます

再建間近の首里城を見学した後、この日のランチは、那覇市首里のとんかつレストラン「YAMASHIRO」へ。ノンブランドでも美味しい豚肉があることを伝えたいというオーナーシェフの山城徳人氏が営む、極上のとんかつと琉球料理、沖縄県産食材にこだわった料理が楽しめるお店です。厳選した沖縄県産豚肉を低温でじっくりと揚げ旨味を引き出したとんかつは、ソースではなく塩やオリジナルマスタードで頂くこだわりの逸品です。また、コースメニューでは豚肉だけではなく、沖縄県産食材の前菜や琉球宮廷料理を味わうことができます。

ここでもシェフたちはそれぞれの料理に興味を示し、食材やその料理方法について意見を交わし、語り合っていました。

この日のコースメニューの前菜は、郷土料理のドゥルワカシー(田芋の煮物)にジーマーミ豆腐、ミニタコスなど
沖縄県産豚肉を低温でじっくりと揚げ、旨味を引き出したとんかつが味わえる、こだわりの逸品。シャトーブリアンやヒレ肉など、部位ごとに注文できます
肉本来の旨味や肉質を楽しむための理にかなった調理法やこだわりに、シェフたちも感心していました
とんかつレストラン「YAMASHIRO」のオーナーシェフ・山城徳人さん

「生産者のこだわりや工夫により、アグー豚、アグーブランド豚にもさまざまな種類があることを学べたことが最も印象的でした」

「アグーの歴史、一度絶滅しかけたアグーを復活させた努力に感銘を受け、その血筋を引き継ぐ豚肉を食材として活用してみたいという意欲が湧きました」

「一般的な流通では販売されていない部位を手に入れることができるのも沖縄の魅力です。今まで使用したことがない部位など、積極的に活用してみたい。どのような料理が生まれるのか今から楽しみです」

「初めて目にする沖縄県産の野菜やハーブ、フルーツに可能性を感じました。東京でも手に入れることができれば活用してみたいと考えています」

「海ぶどうのしゃぶしゃぶを初めて食べましたが、非常に美味しく、何かに活用できないか検討しています」

「イタリアンと沖縄料理は共通することも多く、地産地消的な考えを大切にしていきたいと考えています」

「泡盛についても、古酒の熟成過程における余韻や風味の変化について、興味深い考察が得られました。イタリア料理との相性もよさそうなので、料理やグラッパの代わりとしての活用、デザートへの応用など、いろいろ試してみたい」とシェフたちは2日間を振り返り、うれしそうに話していました。

1泊2日で沖縄本島南部を巡った「沖縄県産地見学会」。今回も新たな食材との出会いのみならず、沖縄料理や沖縄県産食材への理解を深め、沖縄の食文化の奥深さを体感する貴重な機会となりました。

text, photo: Naoki Yasumura

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