フランス料理技術講習会 by相原 薫氏 〜進化した魚介料理作りの感性。その可能性を学ぼう〜


「月曜シェフ塾」は、フレンチやイタリアンを中心としたプロの若手料理人、ホテル勤務者などを対象にした、低価格で調理技法を学べる試食もできる料理講習会だ。講師は、業界を代表する高い見識と調理技術を有する一流シェフ。レストラン業界の休みが多い月曜日を基本に開催している。

2022年8月22日(月)、東京・池袋の「武蔵野調理師専門学校」のセミナールームで、フレンチレストラン「サンプリシテ」の相原薫シェフによる「フランス料理技術講習会」が開催された。
今回のテーマは、「進化した魚介料理作りの感性。その可能性を学ぼう」だ。神奈川県・葉山のレストランで料理人としてのキャリアをスタートさせた相原シェフ。「場所柄、魚料理が多かったし、フランスで修業をしていたときも、なぜか魚料理が多かった。そんなこともあって、『銀座レカン』を辞めたとき、『これからは他のシェフたちと同じ方向を向くのは止めて、魚料理で勝負しよう』と思ったんです」と相原シェフは言う。
2017年にオープンして以来、「サンプリシテ」のコースは魚が中心。そんな“魚のスペシャリスト”の経験や技、知識を吸収しようと、多くの料理人たちが会場を埋めた。

最初の料理は、「昆布〆の真鯛 マッシュルーム」。真鯛は45分間塩締めにし、その後3時間昆布締めにしたのち、3日間寝かせる。塩締めで使うのは岩塩とてんさい糖。「少し砂糖を加えると、丸味のある味わいになります。また、鮮魚は他の食材と馴染みが悪いので、ウチで使う魚の半分以上は寝かしています」と相原さんは説明する。
鍋にスライスしたエシャロットを入れて炒め、しんなりしたところにブラウンマッシュルームを加えて塩をふり、さらに炒める。水分がなくなったところでイカのスープを加え、味が濃縮したら、ミキサーにかけながら生クリームを少し加えて裏漉しする。そこにマヨネーズと白味噌を加えてソースをつくる。
昆布締めにした真鯛はさいの目に切り、エシャロットとシブレットを加え、ソースを加えて味を整える。飾りは、スライスした生のブラウンマッシュルーム、スライスして揚げた紫ジャガイモ、温泉卵の黄身、マイクロパセリ。最後にかけたブラックライムのパウダーの酸味が全体の風味を引き締め、爽やかな味わいだ。

続いては、「真鯛のヴァプール アンショワイヤード」。
「真鯛は軽く蒸したほうが美味しい。とくに今回使う明石産の真鯛は旨みがしっかりしていて柔らかいので、蒸し料理にはぴったりなんです」。
エシャロット、ニンニク、鷹の爪、マッシュルームを弱火でじっくり炒め、アンチョビを加え、ノイリー酒を2回に分けて入れ、白ワイン、フュメドポワソンを加えたら、全体が1/3くらいになるまで煮詰める。そこに生クリームを入れ、5分ほど火を入れる。さらにミキサーにかけ、裏ごし。マヨネーズを加えたジュドシトロン、白ワインビネガー、塩で味を調えれば、アンショワイヤードは完成だ。
「アンショワイヤードは万能ソースといわれるもので、私はアンチョビの代わりクエやタイを使うこともあります。アンチョビは煮詰めすぎると苦みが出るので注意してください」。
タップナードは、ナッツ、オリーブ、ケイパーをさいの目に切り、そこに細かく切ったニンニクとエシャロットを加え、グラナパダーノ、塩、白ワインビネガーを入れて味を調えれば出来上がりだ。
塩をして水気を拭き、3日間寝かせた真鯛は、スチームコンベクションオーブン(130℃のコンビモード)で4分間加熱する。皿に真鯛を盛り付け、オリーブオイルをかけ、タップナードを乗せれば、真鯛の旨みをたっぷり楽しめるメインのひと皿が完成する。

3つ目は「スープドポアソン」。
「ウチでは、料理の最後にスープをお出ししているので、今回も最後はスープにしてみました」と相原シェフ。魚の骨、オマールとカニの殻は220℃のオーブンで約10分焼いておく。タマネギ、セロリ、フェンネルをオリーブオイルで炒め、トマトペーストを加えてさらに炒める。そこに焼いた魚の骨、オマールとカニの殻を加え、水分を足して火にかけ、沸いたところでアクをすくい、ニンニクやトマト、ローリエ、セロリの葉、タイム、セージ、サフランなどを入れて約45分間炊いたあと、漉す。これがベースのスープ。
さらに、別の鍋でニンニク、エシャロット、タイの身を炒め、ペルノー酒を入れて煮詰め、ベースのスープを加えて20〜25分炊いて、ムーランレギュームで漉す。これで、スープは完成だ。
さらに、ベースのスープで、水で3回アク抜きをしたニンニク、ジャガイモを柔らかくなるまで炊き、そこにパンを加えてミキサーで滑らかなピューレにする。これがルイユベース。このルイユベースと卵、クリームで色出ししたサフラン、ベースのスープを混ぜ、オリーブオイルで乳化させればルイユの完成だ。
スープボウルにルイユを入れ、ベースのスープを注げば、スープドポアソンの出来上がり。だし汁のような穏やかな旨みが、食後の胃に染み渡る。

「味のレベルが同じモノを合わせるとよい。真鯛は旨みが強いので、旨みの強いマッシュルームと合わせてみた」
「調理中、新しい素材を加えるたびに塩をふる。これは『銀座レカン』時代から守っている高良康之シェフの教え」
「ブラックライムのパウダーは、水分は欲しくないけれど酸味は欲しいというときにぴったり。ライムを真っ黒になるまで天日干ししてパウダーにするだけなので、やってみてください」
「アジやイワシも味が濃いので私はフュメドポアソンにも使う。内臓はとってすぐに焼けば臭くならないので、ウチではすぐに焼いて、冷蔵庫で保存しています」等々……。

“魚のスペシャリスト”ならではのヒントが詰まった講習会は興味深く、3時間があっという間に過ぎていった。

text:山内 章子

Sautoir Club/月曜シェフ塾 

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