僕の考えるスープとは、つまり素材のエキス。ひとさじ味わったとき、素材そのものを食べる以上に、そのエキスをおいしく味わえるのが、スープなんだと思います。
「磯魚のスープ」はうちの店の名物料理のひとつで、これを楽しみに来るお客さまが大勢いらっしゃる。独立してから20年以上作っているけれど、作り方に工夫や変化が多少あっても、味はほとんど変わっていません。魚のおいしいエキスが主役だから、変えようもないですしね。
このスープは、三崎の網元さんとの出会いと学びがあったからこその料理。たとえば、海から揚げてすぐ活け〆した魚は、絶対真水で洗わない。氷で冷やすのも、氷が溶けると真水になるからダメ。海水がついたまま使ってこそ旨味が損なわれないとか。そういう大事なことはすべて、網元さんに通って教わりました。
素材のエキスを引き出すには、素材の扱い方をとことん研究する必要がある。たとえばスープには、捕れたての魚より、2〜3日ねかせてアミノ酸が増えた状態の魚を使う。活け〆だから、もちろん新鮮さは保たれています。逆に捕れたては身が締まりすぎて、スープには不向き。
調理以前のこうした素材の研究が、実は大切なんだと思います。
神奈川県・三崎の網元直送の天然の磯魚を数種類たっぷり使い、そのエキスを味わっていただくスープ。メバル、カサゴ、カワハギ、イサキ、スズキなど4~5 種類は欲しいです。旨味の主役となるのは、魚の身以外のうろこ、骨、内臓などですから、無駄なくすべて使い切ります。野菜や香辛料を加えるのは、魚の旨味をおいしくいただくよう、味や香りのバランスを取るため。いずれも少量で充分です。魚は真水で洗ったりせず、海から揚がったままの魚をまるごと使います。火加減と塩加減に注意して旨味をじっくり引き出せれば成功です。
作り方(10人分)
text by Saori Bada photographs by Yuko Uehara
本記事は雑誌料理王国2010年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。