イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。正しく識り、品質の良し悪し、味わいの違いを理解して料理の可能性を広げる一助を目指します。
官能テストは、比較的新しい科学で、食品の特質を我々ヒトの知覚器官で感知し、特定分類し、計量化して、記述することである。現在、食品の品質とは、消費者の心理的・生理的欲求を満たすことができる食品本来の特性、あるいは外見そのほかの特性と考えられており、消費者は自分の感覚及びこれまでに味わった経験に基づいて自らの好みに合った製品を選んでいる。
生産者はその製品の安全性と衛生的であることを保証する一方で、市場に並ぶ幅広い製品の中から選び出すのは消費者である。
官能分析は、化学的、化学物理的、物理的刺激に反応するヒトの知覚器官を駆使することに依っている。言い換えれば、頭蓋に守られて、外部環境と直接アクセスすることのない脳の代わりに鼻、口、目などの知覚器官が外の刺激を受け取って電気信号に変換し、神経が仲介して脳に伝えるという仕組みを利用しているのである。
食品の官能的特性を知覚するのは主に味覚、嗅覚、視覚で、それに次いで二次的なのが聴覚と触覚である。視覚で形状や色を、嗅覚で匂いを、嗅覚と味覚で味と香りを感知し、テクスチャーやそれに関連した特性は聴覚と触覚で分析する。
味覚は、五つの基本的な味を知覚、分類する。
塩味、甘味、酸味、苦味、旨味が基本の五味である。味を知覚するのは味蕾で、口内の粘膜全体に存在するが、とりわけ集中しているのが舌である。舌には形態や部位によって4種類(茸状、有隔、葉状、糸状)に分類される乳頭があり、味蕾は糸状乳頭以外の三つに存在している。これら乳頭は舌の各所に種類ごとに偏って集合しているため、特定の部位で特定の味に反応する仕組みになっていると考えられてきた。例えば、茸状乳頭が集まっている舌先は甘味を感じやすいと言われていたが、近年の研究でそれは誤りであり、舌全体で五味を感知していることがわかっている。
一般的にヒトの舌に味蕾は5000個程、口蓋、咽頭、喉頭も含めると6000個程あると言われ、年齢を重ねるに従って味蕾の数は次第に減る。また、味覚には個人差があり、いくつもの味を知覚できる人もいれば、大雑把にしか感じられない人もいる。訓練をすればその能力をある程度は高められるが、基本的には持って生まれた能力に左右される。
風邪を引いて鼻づまりが起きると食べているものの味がわからなくなる。つまり、嗅覚は味覚と密接な関係にある。塩味、甘味、苦味、酸味は感じることができても、“風味”は嗅覚と味覚の両方が機能していないと感じることはできない。
鼻の上の方に、嗅覚受容器という神経細胞があり、その受容器から生えている線毛が鼻腔に入った分子から刺激を受け、電気信号を脳に送ることで匂いを感じる。さらに、匂いは、過去の匂いの記憶が保存されている脳の領域をも刺激するため、過去に嗅いだことのある匂いと今嗅いでいる匂いを照らし合わせ、分類することができる。ワインやオリーブオイルのテイスティングで特定の表現を使うのは、こうした嗅覚の“記憶できる”特徴を利用しているわけだ。
食べ物を目にした時、無意識に湧き上がってくるものがある。例えば“空腹”とか“食欲”といったものだ。
一方、食べ物を見ずに食べると不安な気持ちに陥る。目隠しをした状態で食べ物を口に入れると、自分がいったい何を食べているのかわからなくなる。
食品の色は視覚で捉えることができる性質のうちでも非常に重要で、心理的影響が大きい。たとえば皿上に青や紫の食品があると食欲を低下させ、クリーム色や明るいブラウンは食欲を刺激する。
オリーブオイルのテイスティングにおいては、視覚テストは行わない。オイルが黄色であるとか緑色であるといったことは、“思い込み”をもたらすので、エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルの品質を見極める指標ではないことを覚えておいてほしい。
正式なパネルで用いるテイスティンググラスは、IOC(国際オリーブ評議会)によって形状が決められている。
サイズは以下のように定められている。
グラスにはオイルの香りが揮発するのを防ぐため、ガラス製の丸い蓋を載せる(直径はグラスの口径より10mm以上)。
個々のテイスティングブースには、グラスごとオイルを温める専用の加熱機器が設置されている。内部には温水が満たされるようになっており、テイスティングするオイルは28度(±2度)を保つこととなっている。
ONAOO https://onaoo.it
ひとことポイント
ONAOOのテイスター養成講座での実践講習では、環境に配慮し、プラスチックに似た生分解性のカップを使用している。とはいえ、このカップでのテイスティングと公式のグラスのテイスティングではずいぶん印象が違ってくる。28度に温められたオイルを、上部のすぼまったグラスでまずその匂いを嗅ぐが、カップに比べ、その特徴が一段と際立って感じられる。急に自分の感覚が研ぎ澄まされたような気分になるくらいだ。また、このことからも、オイルを実際の料理や食事に使う際は、28度くらいにすることが大切だとわかる。冬や夏は特に温度に注意して用いたいものである。エクストラ・ヴァージン・オリーブオイルの特徴的な香りは加熱すると飛んでしまうので、調理に用いるのは構わないが、その香りを生かしたいのであればともかく最後の仕上げにもかける。逆に、香りの弱いオイル、品質の低いオイルは仕上げに使う必要はないばかりか、料理が台無しになる可能性もある。自分が使っているオイルを常に味見し、状態を確認することが大切である。
text・translation:池田愛美 Ikeda Manami
ONAOO所属プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスター