イタリアでプロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターを育成する公的機関ONAOOが、オリーブオイルを扱う食のプロに向けてオリーブオイルについての基礎知識、テイスティングのメソッドを公開する日本初のweb連載。正しく識り、品質の良し悪し、味わいの違いを理解して料理の可能性を広げる一助を目指します。
ONAOO (Organizzazione Nazionale Assaggiatori Olio di Oliva)は、イタリア商工会議所連合によってオリーブオイル・テイスティングの手法を世界に普及促進することを目的に設立された公的機関である。本部はイタリア・リグーリア州インペリアの商工会議所内に設置されている。
現在、同協会の代表を務めるルーチョ・カルリ曰く、設立メンバーそして現在ONAOOを運営するメンバーは、オリーブオイルというイタリアを代表する産物への関心を高めるべく活動を行なっている。オリーブオイルは古代ローマや、さらに古くはエトルリア時代から脈々と受け継がれてきた伝統食品だが、革新的な技術やメソッドによって飛躍的な進化を遂げていることは案外知られていない。ともかく、伝統的であり同時に現代的でもある、イタリアが誇る食のダイヤモンドとも言える輸出産物である。
ONAOOは、業界その他の影響を受けることなく、科学的見地に基づき、世界各地のオリーブオイルの品質を評価する独立した機関である。
公的機関ではあるが、およそ600ものオリーブ品種を有するイタリアを無視することは不可能でもある。しかし、ONAOO副理事兼テイスティング・スクールの責任者であり、パネル・リーダー(※)を務めるマルチェッロ・スコッチャ曰く、高品質オイルはイタリア産に限らず世界各地にある。だからこそ、優れたオイルを欲しいと思う人は、まず、料理に使ったり食卓に供するオイルとはどうあるべきなのかはっきりとしたビジョンを持つ必要があるのだ。そしてひとたび「これだ」と思う味を見つけたら、ラベルの読み方を熟知することも重要である。
マルチェッロ・スコッチャはさらに重ねて、オリーブオイルを選ぶにあたり、しばしば正しい価値判断が行われていないという。例えば、高価であれば必ずしも優れた製品というわけではない。良いオイルとそうでないオイルの違いは、正しく製造が行われること、そして、それを見極めるテイスティングの技量に関わってくる。
ONAOOのテイスティング・スクールでは、幾重にも渡る理論と実践を通して、オイルの違いを嗅覚及び味覚を使って見極めるトレーニングを行う。例えば、苦味や辛味は低品質を示すのではなく、抗酸化作用を持つフェノール系物質を含有することを示す、ポジティブな性質であることを実体験する。さらに、テイスティングコースを通して、オリーブオイルとは単なる調味料ではなく、料理のアニマ(魂)をより豊かなものにする食材そのものであるということを体感していく。さらにいえば、オリーブオイルに対する感じ方・考え方をワインのそれに近づけていくことも重要だと捉えている。つまり、一皿一皿に応じてワインを変えるように、オリーブオイルも料理に合わせて使い分けられるように導いていく。
ONAOOの核となるのは、テイスティング・スクールである。世界で最初にオリーブオイル・テイスティングを普及することを目的に開校し、今日に到るまで15000人以上が受講している。テクニカル・コース、上級コース、トレーニング・セッション、オンラインコースなど、受講者の希望に沿えるよう種々のフォーマットを用意している。オリーブオイル業界で働きたいと思う人にとっては、プロフェッショナル・テクニカル・コースが非常に有効である。
また、テイスター育成のスクールのほか、世界各地の機関とのコラボレーションにも重点を置いている。外国におけるオリーブオイル知識の普及もONAOOの重要な活動目的だからだ。それはつまり、食品の利用にあたって正しい知識を活用したり、飲食業における正しいオリーブオイルの使い方を広めることに繋がる。
実際にこれまでONAOOは、アメリカ、南アフリカ、日本、台湾、トルコ、チュニジア、モロッコ、チリ、インドにおいて、ONAOO所属の講師派遣を行ってきた。
また、これまで培った経験とイタリア国内及び国外での調査活動によって、ONAOOはプロフェッショナル・テイスティング・パネル(※)を擁する機関に成長した。これは、ONAOOがオリーブオイルの商品的価値を現在の法律に準拠して判断する機能を持つということである。オリーブオイルは化学的・物理的分析的に評価されるだけでなく、真にピュアであるか、品質の優劣を見極めるスタンダードな分析がなされなければならないのである。
Text : ONAOO https://onaoo.it
※パネル及びパネル・リーダー
パネルとは一般にはエキスパートで構成されたグループ。オリーブオイルの業界では、オイルの官能検査を担うプロフェッショナル・テイスターのグループを差し、パネル・リーダーがテイスターを招集し、官能検査のコントロール、採点の集計を行う。
プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスターになるには、まず、能力があるかどうかを見極めるためのレベル1の講習を受ける。4日間に渡る講習ではオリーブオイルにまつわる農学、製造、商業についての基礎知識とテイスティングの実践を行う。講義は基本的にイタリア語で、希望者は英語の同時通訳で受講する。
テイスティングはさほど難しくないが、講義を現場で理解するのは結構厳しい。決まったテキストがないので、耳でひたすら理解するほかないからだ。とはいえ、レベル1の最終テストはテイスティングのみなので、最悪、講義についていけなくてもテイスティング試験さえパスすれば、次のレベル2に進むことができる。ちなみにほとんどの人は試験にパスする。
レベル2は2年間に渡って受講する。最初に3日間のリアル講習、その後は月に1回程度のオンラインでのテイスティングセッションまたはセルフテイスティングを行い、最後に再び3日間の講習と最終試験を受ける。最終試験もテイスティングのみ。パスすればプロフェッショナル・テイスターとしてONAOOに所属することが可能となる。
レベル2は時間を要する上に受講料もレベル1よりもアップするため、レベル1をパスしてもレベル2に進む人は少ない。レベル2に進むのはオリーブオイルの生産に携わる人が多いようだ。
text・translation:池田愛美 Ikeda Manami
ONAOO所属プロフェッショナル・オリーブオイル・テイスター