料理王国100選成功事例02:富士幻豚

富士幻豚

2023年度料理王国100選の入賞商品に選ばれた「富士幻豚」。過去には2016年度から毎年入賞、21年度、22年度には優秀賞に選ばれたという実績を持つ。
富士幻豚の品種のベースは中ヨークシャー。六大原種豚の1つに数えられ、その中でも特に融点の低い脂肪ときめ細かな肉質を持っている。その一方で、長く育てても大きくなりにくいことや赤身率の低さ=歩留まりの悪さから、生産効率、経済効率の高い三元豚に取って代わられ、今では年間出荷数は数百頭にまで減ってしまった。しかしその食味の評価は依然として高く、23年度の審査員からも「脂が口にまとわらず食べ易い。さっぱりとした味わい。ロースの歯ざわりが良い。」(ピアット スズキ:鈴木弥平シェフ)、「コンセプト、ネーミングが良い。」(リンベル(株):小林良さん)といったコメントが届いている。
今回はそんな「富士幻豚」を実際に仕入れているバイヤーと料理人から、使い始めたきっかけや実際に販売する中でのお客様の反応、そしてそこに「料理王国100選入賞」という評価がどう影響しているか、話を聞いた。

富士幻豚
富士幻豚

伊勢丹新宿店の地下1階、生鮮食品売場のアイズミートセレクションには週替わりで全国各地のブランド豚を紹介するコーナーがあるが、富士幻豚は5年ほど前から毎年1、2回必ず登場している。きっかけは富士幻豚を販売する良品食材からの提案だったが、その際に盛んにアピールされたのが、「料理王国100選での入賞歴」だった、と教えてくれたのは三越伊勢丹のバイヤーとして生鮮とキッチンステージを担当する川合卓也さんだ。最終的にはもちろんその食味の良さや、品種としての希少性、そうなってしまうまでのストーリーといった要素が決め手にはなったが、全国に数多の銘柄豚、ブランド豚が存在する中で、試食する前の最初の入口として「料理王国100選」の存在が差別化になっている。また、店頭では「料理王国100選」の入賞商品のみに使えるロゴの入ったPOPやチラシが掲示されている。プロ向けの専門誌である料理王国を知らない一般の消費者にも「何か賞を受賞した」ということがビジュアルで伝わりやすく、そこから熟練の販売員たちが「富士幻豚」の美味しさやストーリーを言葉でお伝えすることで、毎年たくさんのファンを生み出して来た。そこに実際の体験としての美味しさが重なることでファンがリピーターとなり、そうして入れ替わりのある企画の売り場でも毎年販売が続く商品として定着しているのだ。

富士幻豚

東京・両国のイタリア料理店「レガート」の宮内洋シェフも、昔から「富士幻豚」を使ってきた料理人の1人だ。豚肉を使った料理を得意とする中で20種にも及ぶ様々な品種、銘柄、ブランドを試してきたが、そこから選び抜かれ、以来使い続けているのが「富士幻豚」だという。最初の出合いははっきり覚えていないが、恐らく料理王国の本誌を見てだったそうだ。そこから自ら一般向けの定期購入に申し込んで試し、これなら自信を持って提供できると感じたという。お店の看板商品である「ボロネーゼ」もこの「富士幻豚」が中心で、牛肉は、半頭単位で仕入れる富士幻豚の様々な部位が入り仕込みのその時々で味も変わって来るところを、牛肉を加えることでバランスを取り、常に一定の味を保つための役割を担うに過ぎない。そういうと牛肉が少ない分、原価が安く収まっているように感じられがちだが、実際は全くそんなことはない。「富士幻豚」は牛肉と変わらないくらいの価格で、宮内シェフもそこは悩みどころではあるが、それでも「この味は変えられない」という。
宮内シェフが「富士幻豚」と出合った頃と違い、今はインターネットでどんな食材の情報も手に入り、情報だけでなく実際に仕入れることも時代である。しかし、料理人たちはそれでいいとは思っていない。彼らは産地に行き、生産者に直接会い、産物に直接触れたいのだ。宮内シェフも良品食材の先にいる「富士幻豚」の生産者に会いたいし、そうしてこそ思い入れが生まれ熱意を込めて料理ができると語ってくれた。「料理王国100選」は数多くのシェフが品評員を務めており、熱意ある生産者とつながりたいと思っている料理人たちに直接つながれるきっかけとなる場でもある。

text:小林乙彦(料理王国編集部)

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